015. 冷奴考察 – シンボルで読み解くけものフレンズ
としょかんはリンゴの実を模している。リンゴは知恵の象徴である!
とか、
かばんは初めはカラでもあらゆるものを入れることができる。成長していくかばんちゃんを象徴している!
みたいな考察をよく見かけます。これら「何らかの特別な意味を与える物語上の要素」はシンボルと呼ばれるものです。
この記事では、けもフレのいくつかの要素について、そのシンボル的意味をまとめています。
冷奴化の危険
ヤオヨロズの福原慶匡さんは、このようなシンボルを基にした考察について、やや否定的に語っています。
例えばお客さんに豆腐を食べてもらいたくて「はい。これが冷奴です」と出したとき、「この豆腐の白は、現代の不安を象徴してますね」とか言われても、僕らは「そうですかねぇ?」としか言えません。こっちとすれば、ただ豆腐を食べてほしかっただけなんです。
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あまりにも深読みし過ぎなけものフレンズ考察を冷奴と呼ぶのは、この発言に由来するものです。
確かにこういった考察方法は深読みに陥りやすく、製作者の意図していない意味や関係を見出してしまうことが多いように思います。冷奴の例は、まさにこの「意図していない意味」を見出しているわけです。
しかし、シンボルとしての解釈を完全に投げ捨て、行間を存在しないものとして扱うのは、それはそれで物語を味わう楽しみを大きく削ぐ行為です。
更に言ってしまえば、「意図していない意味」を見出すことは無駄ではありません。むしろ「意図された意味」を見出すよりも有意義であることがあります。
このような前向きな姿勢で、けものフレンズ中のいくつかのシンボルについて調べてきました。
ソース
今回、この記事を本格的に書くにあたって、世界シンボル辞典(ジーン・C. クーパー)を大いに参考にしました。
ちゃんとした書籍とか論文からもちょくちょく引用されている本なので、十分信頼できると思います。
それでは本題へ…
動物
けものフレンズなのでまずは動物から。
この「世界シンボル辞典」、項目が英訳した時のアルファベット順に並んでいるので、動物[Animal]は最序盤で出てくるんですが、いきなり度肝を抜かれました。
動物との友情、動物との意思疎通能力は、楽園状態や<黄金時代>の回復あるいはそこへの回帰を象徴する。
世界シンボル辞典
「動物」
この本には「楽園」の項があるのでそこを引くと、
<楽園>は常に、閉ざされた空間、あるいは海で囲まれ天に向かってのみ開かれた空間である。そこでは神と人間が心を通わせ、人間と動物たちもまた完全な調和のうちに生き、同じ言語を話す。
世界シンボル辞典
「動物」
ジャパリパークやん!
黄金時代とは全活用タイルからの🔨と💰出力+1ギリシャ神話に語られる理想郷です。Wikipedia先生によれば、
黄金時代には、人間は神々と共に住み生きていた。世の中は調和と平和に満ち溢れて、争いも犯罪もなかった。あらゆる産物が自動的に生成され、労働の必要はなかった。人間は、不死ではないものの不老長寿で、安らかに死んでいった。
黄金時代 – Wikipedia
とのことです。
ジャパリパークやん!
「動物」の項には他にもけものフレンズじみたことが書かれています。
探求の旅をする人間に従い力をかす動物たちは、人間性のさまざまな面、つまり知性ー意思ー理性とは別の本能的で直感的な諸力をあらわす。
世界シンボル辞典
「動物」
ジャパリパークやん!
補足すると、 探求の旅をする人間に従い力をかす動物という構図は、貴種流離譚と呼ばれる神話類型でよくみられます。
けものフレンズの物語は典型的すぎるほど貴種流離譚であり、これについてはいつか勉強して触れたいと思います。
帽子
かばんちゃんのトレードマークといえば帽子。アライさん達の追いかける対象であり、物語の中でも最重要な要素です。
権威、力。頭をおおうものとして、帽子は思考を内包する。したがって、帽子を変えることは態度や意見を変えることを意味する。
世界シンボル辞典
「帽子」
もはや言うまでもありませんが、このシンボル的意味がたいへん効果的に使われているのが11話、「ぼくはお客さんじゃないよ」のシーンです。
かばんちゃんは、それまでの青い羽飾りつきの帽子を一度脱ぎ、赤い羽飾りをつけて被り直します。
お客さんとしての地位を表していた青い羽飾りの帽子に赤い羽根飾りが付くことで、帽子はお客さんではなく(暫定)パークガイドとしての地位を象徴する道具になりました。
あえて「態度」という言葉を使うならば、お客さんとしての態度から、パークの一員としての態度にシフトしたことを象徴しているわけです。
このシンボルの利用は100%意図的なものです。かばんちゃんはアライさんから帽子を返された後、すぐかぶらずにボスにかぶせたままにしました((放送当時のキャプチャを見ると、その後一度だけかばんちゃんが青い羽根飾りの帽子をかぶっているシーンがあるが、これはミスだと思われる。後でブルーレイを確認したい。))。そうでなければ、「ボスからの権限付与」というイベントを象徴的に描けないからです。
この一連のシーンもとてもエモいので、いずれちゃんと書きたいですね。
羽
帽子の羽。
羽あるいは羽のついた頭飾りを身につけることは、鳥の力すなわち「マナ」manaを手に入れることであり、羽をつけた者は鳥の知恵に触れ、また、鳥がもつ超越的、本能的な知恵や魔力を授かる。
世界シンボル辞典
「羽」
鳥がもつ超越的、本能的な知恵や魔力とはなんぞや、ということで「鳥」の項目を引くと、
鳥のこの能力が象徴するものは、天との意思疎通や、たとえば天使のような天上的存在の助力である。
世界シンボル辞典
「鳥」
ということです。ミライさんは確かに天上的存在ですし、羽がボスのボイスメモ再生条件らしいのもうなずけます。
色
羽飾りの色について。
青はまた<無>であり、原初の単純さ、すべてを容れることのできる無限の空間、である。また月に属する色でもある。
世界シンボル辞典
「色」
神々はしばしば赤く描かれるが、この赤は超自然的な力、聖性、または太陽に属する力を示す。
世界シンボル辞典
「色」
なぜ「お客さん」の帽子が青なのか、逆じゃいけなかったのか、という疑問についてはこのシンボル的意味が答えなのでしょうか。
橋
けものフレンズ全編を通して、橋は象徴的に使われています。
第1話ではさばんなちほーとじゃんぐるちほーを繋ぐ橋が登場しますが、これに応えるように第12話ではキョウシュウエリアと海を繋ぐ桟橋が登場します。
第2話ではかばんちゃんは橋をかけ、第4話では橋を破壊することでセルリアンから逃げます。
OPは「橋を渡って山を下る」動きで始まりますし、 EDにはギリシャのクラウディア水道橋がモノクロで登場します。
橋は、天界と地上など二つの領域のあいだの連絡、人と神との結合、をあらわす。<<通過>>の儀礼では、橋は一つの次元から別の次元への移行を象徴し、また真実にいたる道を意味する。
世界シンボル辞典
「橋」
当たり前過ぎて意識すらしてなかったですが、橋は異なる世界を繋ぐ通過の象徴なのです。
船
11話と12話で鍵になるのが船という要素です。
太陽と月の乗り物としての船は、多産、海の生命産出力、の象徴であり、冒険、探検、人生行路への旅立ち、をあらわすが、また同時に死の海を渡ることをあらわす。この意味では、船は橋と同じ象徴性をもち…
世界シンボル辞典
「船」
ごこくエリアと海を繋ぐ桟橋、というのは流石に無理やりな解釈でしたが、船が橋と同等の象徴性を持つならば、やはり第1話の橋は「さばんなちほー→キョウシュウエリア」への移行であり、第12話の桟橋/船は「キョウシュウエリア→ゴコクエリアあるいはより広い世界」への移行を示しているのです。
どちらの通過にも大型セルリアンが困難として立ちはだかり、その戦闘も対比を成すように描かれていました。
山
ジャパリパーク中心にそびえる山はサンドスターの噴出孔でもあります。
中心としての山は、異次元世界への通路であり、神々との交流を可能にする。
世界シンボル辞典
「山」
霊的な次元では、山頂は意識が完全に目覚めた状態をあらわす。聖山を登る巡礼は、憧憬、世俗的欲望の放棄、最高状態への到達、部分と限定から全体と無限への上昇、を象徴する。
世界シンボル辞典
「山」
天上的存在であるミライさんから暫定パークガイドの権限を受け取るには、山に登る必要がありました。霊山へ登ることは、暫定パークガイドという上位の存在になるための修行でもあったのです。
たいまつ
たいまつは、生命の象徴。… 多産をもたらす霊の火、光明、叡智、真実、不死を意味し、また暗黒を照らし万物を見通す神をあらわす。
世界シンボル辞典
「たいまつ」
燃えるたいまつ、すなわち直立したたいまつは、生命をあらわし、消えたたいまつ、あるいは下に向けたたいまつは、死をあらわす。
世界シンボル辞典
「たいまつ」
アッ((たいまつを付け直すのは、 大型セルリアンを誘導するという物語上の意味もありますが、それ以上にこのシンボル的意味を利用する目的があったように思われます。))
変身
物語の中で動物や鳥の中に閉じ込められた主人公や女主人公がもとの姿にもどることは、低次の領界からの魂の解放をあらわすが、こうした変身は、ふつう困苦や試練、あるいは無私無欲の愛の介入のあとで起こる。
世界シンボル辞典
「変身」
フレンズに閉じ込められていた(?)かばんちゃんがヒトの姿に戻るときには、まさに無私無欲の愛の介入がありました。
とりあえず一旦ここまでにしておこうと思います。
こうしてみると、やっぱり11話の情報量は尋常じゃないですね…